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とうふかい

豆腐買い

岡本 かの子

「三田文学」1934(昭和9)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,329 字 · 29 页

青空文庫

つい先頃まで流行して居たはやり唄が和訳されてもう町の童の唇に上っている。なんて早い日本だろう。それよりかもさきほどから弾丸のように飛出して来て敏捷の間にいくつもの早業をやる男の子の手足が生きて加奈子の眼底に残った。加奈子は五六歩過ぎてからまた振返って男の子をみた。男の子はマッチの包みと割箸の袋とを左右の手で巧に投上げながら唄に合せる腰の調子は相変らずやめずになおもこっちを見つづけている。

倫敦へ日本の芝居がかかった事があった。座長は大阪の三流どこの俳優で幹部二三人の外はアメリカで仕込んだ素人だから見ていてトテモはらはらした。だがそこで不思議な日本を見た。狐忠信の幕で若い日本の娘たちが花四天になって踊るのだが外人の踊りを見慣れた眼には娘の手足がまるで唐草模様のように巻いたりくねって動くのが人間より抜けていた。顔と身体は人形で手足だけ人間以上の生命を盛っている。そういえば巴里の踊り場でみる日本のタンゴというものが腰に異様なねばりと業があってみんな女と柔道をやっているもののように眺められた。三度目に加奈子が振返ったときに男の子は定めた方向へ行くのをやめて加奈子の方へついて来た。