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まずしきひとびとのむれ

貧しき人々の群

宮本 百合子

「中央公論」1916(大正5)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 59,959 字 · 118 页

青空文庫

「早くおろさにゃあなんねえ」

皆は同じようにそう思いながらまた、同じように誰か云い出す者を待っていた。

大濤のような音を立てて、風が梢から梢へと吹きめぐって来る毎に、激しく動く体の重味で、あの細い繩がプッツリ切れ、ドサッというと一緒に死骸が落ちて来でもしようものならという恐れが、皆をすっかりおびえさせていたのである。

手柄顔をした子供達は、自分をいつも擲ったり叱ったりする「おっかねえ父親(ちゃん)」や「兄(あんに)い」が今日はまたどうしたことか、手も出さないでただ立っているだけだという不思議な様子にすっかりびっくりした。

彼等は片隅に集って、

「ちゃんみたえな大人でもおっかねえんだなあ。――」

「ほんになあ、やっぱりおっかねえと見えら。――」

とささやきながら大人共と死人とを見くらべていた。

男の死骸が下されたのは、それからやや暫くして村に一人の巡査と墓掘りが来てからのことであった。

突張った体が戸板の上に置かれ、濡れて解き難くなった手拭を長いことかかってどけると、傍に立っていた一人は、思わず飛びしさって、

「新さんでねえけえ? う? 新さんでねえかよーッ!」