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まずしきひとびとのむれ

貧しき人々の群

宮本 百合子

「中央公論」1916(大正5)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 59,959 字 · 118 页

青空文庫

彼は、大体に満足して、村の高処(たかみ)に家を建て、自分等夫婦はそこに住んで、田地の世話を焼いたり、好きな詩を作ったりして世を終った。

それで、後に残った祖母も、故人の志を守って彼の遺した家に住み、田地を監視し、変遷する世から遠ざかって暮しているのである。

一年中東京にいた私は、夏になるとK村の祖母の家に行くのを習慣にしていた。そして、二月ほどの間東京では想像もつかないような生活をしているのである。

私は村中の殆どすべての者に知られている。東京のお嬢様が来なすったと云って、野菜だの果物だのを持って来る者に対して、土産物を一つ一つ配ってやらなければならない。朝から小作男の愚痴を聞き、年貢米を負けてやる相談にのる。そして、かれこれ云うのが面倒なので、さっさと祖母にすすめて許してやると、大変慈悲深い有難い者のように私共を賞めたてる。お世辞を云う。

私は皆にちやほやされながら、朝夕二度の畑廻りをしたり、池の慈姑(くわい)を掘ったり、持山を一日遊び廻ったり、すっかり地主の馬鹿なお孫さんの生活をしていた。誰からも、干渉がましいこと一つ云われず、存分に拡がっていたのである。