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まずしきひとびとのむれ
貧しき人々の群
宮本 百合子
「中央公論」1916(大正5)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 59,959 字 · 118 页
六
今年六十八になると自分では云っている善馬鹿のおふくろは、孫と一緒に或る農家の納屋のような所を借りて住んでいる。
家賃を払わないで済むかわり、まるで豚小屋同然な所で、年中蚤や南京虫の巣になっている。
それでもまだあの狒々婆(ひひばあ)さま――彼女は顔中皺だらけの上に白髪を振りかぶり、胸から腰が曲って何かする様子はまるで狒々なので皆が彼女の通称にしている――にはよすぎるというほど、善馬鹿の一族は、どれもこれも人間らしいのはいなかった。
善馬鹿が、まだあんなにならないで一人前の百姓で働いていた時分に出来た、たった独りの男の子は、これもまたほんとうの白痴である。
女房が愛想をつかして、どこかへ逃げ出してしまってからは、善馬鹿とその子を両手に抱えて、おふくろばかりが辛い目を見ているのである。
もう十一にもなりながら、その子は何の言葉も知らないし、体も育たない。五つ六つの子ぐらいほかない胴の上に、人なみの二倍もあるような開いた頭がのっているので、細い頸はその重みで年中フラフラと落付いたことがない。そして、年中豆腐ばっかり食べて、ほかの物はどれほど美味(おい)しいものであろうが見向きもしなかった。