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まずしきひとびとのむれ

貧しき人々の群

宮本 百合子

「中央公論」1916(大正5)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 59,959 字 · 118 页

青空文庫

「ちっともとれねえのね」

と口真似をした。

このいたずらはすっかり私を喜ばせた。

彼等がそんなことをするくらい私に、馴染(なじ)んで来たのかと思うと嬉しかったので、私はしきりにほめた。

子供達は、私の笑う顔を薄笑いして見ていたが、急に持って来た鍋や網をとりあげると、何かしめし合せて調子を合せると一時に、

「ほいと! ほいと! ほいとおーっ!」

と叫んだ。

そして崩れるように笑うと、岸の粘土(ねばつち)に深くついた馬の足跡にすべり込みながら、サッサと馳けて行ってしまったのである。

私は、何が何だか分らなかったけれども、ぼんやり川面(かわづら)をながめながら、非常に生々と快く響いた彼等の合唱を心のうちで繰返した。

「ほいと! ほいと! ほいとおーっ!」

私は小声で口誦(くちずさ)みながら家に帰った。

そして誰もいない自分の書斎に坐ると、あの子等のしたように大きな口をあけて叫んで見た。

「ほいと! ほいと! ほいとおーっ!」

ところへ、祖母が珍らしく妙に不機嫌な顔をして入って来て云った。

「お前は一体何を云っているの? そんな大きな年をして馬鹿をおしでない」

私はちっとも知らなかった。