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まずしきひとびとのむれ

貧しき人々の群

宮本 百合子

「中央公論」1916(大正5)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 59,959 字 · 118 页

青空文庫

だんだん日数が経って、少しずつ自分の願いが叶いそうになって来るにつれて私は益々、白痴の子のことが気になってたまらなくなった。

それで、私はどうにかして彼に近づこうとした。けれども、それはなかなかな仕事で、私の変に臆病な心持が、どうしても彼の傍に私の足を止めて置かせない。四五度遣りかけてはやめ遣りかけてはやめして、とうとうある日の夕方、彼のかたわらに私は立ちどまった。

大変なことでもするように、私の胸はドキドキした。私は、人がかたわらへよっても見向きもしない子供の顔を見ながら、何をどう云って見ようかということを散々迷った。

けれども、どんなことを云ったら、子供の心を引くことが出来るか分らなかったので、四苦八苦してようよう、

「どうしているの?」

と云った。

この一句が唇をはなれないうちに、私はもう自分のやりそこないに気が付いた。

どんな人でも、ぼんやりと、目にも心にも何にもたしかな物が写っていないとき、「どうしているの?」と云われたら恐らく、答えに窮するにきまっている。

私は困ったことをしたと思いながら様子を見ていると、彼は暫くたってからのろのろと、顔を私の方に向けた。