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まずしきひとびとのむれ
貧しき人々の群
宮本 百合子
「中央公論」1916(大正5)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 59,959 字 · 118 页
バタバタバタバタと空しく羽叩きをする響などが、家中の空気を動揺させ、静まっていた塵は、一杯に飛び拡がった。
あまり騒動が激しいので、かえって犬の方がまごついてしまって、濡れた鼻で地面をこすりながら、ウロウロとそこいら中を、嗅ぎまわった。
横に垂れ下った舌や、薄い皮の中から見えている肋骨が、ブルブル震えたり、喘いだりしているのである。
この不意の出来事に、子供等は皆立ち上った。そして、一番年上の子は、火の盛(さかん)に燃えついている木株を炉から持ち上げるや否や、犬を目がけて、力一杯投げつけた。投げられた木株は、ヘラヘラ焔をはきながら、犬の後足の直ぐのところに、大きな音と火花を散らして転げたので、低い驚きの叫びを上げながら、犬は体を長く延して、一飛びに戸外(そと)へ逃げ去ってしまった。
木株の火は消えて、フーフーと、激しい煙が立ちはじめた。
この小さい騒ぎを挾んで、彼等の待遠い時は、極めてのろのろと這って行った。
けれども、ようよう鍋の中から、グツグツという嬉しい音がし始めると、皆の顔は急に明るくなり、微笑した眼が幾度も幾度も蓋を上げては、覗き込んだ。