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まずしきひとびとのむれ
貧しき人々の群
宮本 百合子
「中央公論」1916(大正5)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 59,959 字 · 118 页
けれども私はすっかり安心した。なぜなら、輝きのうちをおよぐようにして、小さい子供が長い竿を抱えて、抜き足差し足で入って来たのを見つけたからである。
彼の行こうとしている方には、家中で一番美味しい杏(あんず)が、鈴なりになっている。
これですべては分った。私は、今までいた所から少し奥に引っこんだ。そして、子供のしようとすることを見ていたのである。木の下まで忍び寄った子供は、注意深くあたりを見廻した。生垣で隔っている母屋の方にまで気を配った。
けれども、猫でない彼は、真暗闇の中にこの私が自分の一挙一動を見ていようとは、まさか思わなかったのだ。
やがて彼は腕一杯に竿を延ばした。顔をすっかり仰向けて、熟した果(み)に覘(ねら)いをつけ、竿の先をカチカチと小さく揺ると、二つ三つポロポロと落ちて来る。
彼は二三度同じことを繰返した。してみる度毎に結果は好いので、彼はだんだん勢付いて、子供らしい、すっかりそれに熱中した様子になって、四度目のときには、今までよりよほど力を入れて枝を擲(たた)いた。
木の頭は大きく揺れた。そしてバラバラとかなり高い音を立てながら沢山な果が、下にいる彼の顔の上だの肩の上だのに飛び散ったのである。