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ひんみんくらぶ

貧民倶楽部

泉 鏡花

「北海道毎日新聞」1895(明治28)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 55,333 字 · 111 页

青空文庫

一円ならお剰銭をあげましょうか。」とはどこまでも男を下げられたり。

「いえ、銅貨で重うございますが。」と間の悪そうに勘定して、肱座を引たくり、早足に歩み行くを、「もし、もし、ちょいとあの。」と呼返され、慌てて戻り、「何ぞ粗相をいたしましたか。」「御勘定違いでございましょう。二銭だけ不足です。」と判然言われて真赤になり、「それははや何とも。」と蝦蟇口を探りつつ、これでもまだまだ見えをする気か、五銭の白銅一個渡して見返りもせぬ心の内、今度呼んだら剰銭は要らぬと、腹を見せる目的の処、何がさて如才なく令嬢は素知らぬ顔なり。

年少紳士胆を抜かれてうっかりと佇めば、

「御休息なさいまし。」と茶店の姫様。

はッと思う眼の前へ深川夫人衝と寄って、

「貴下、お茶一ツ。」と差出すに蒼くなりて、

「出口はどこでございます。」とは可哀やもう眼が見えぬそうな。

入替りて洋服の高等官吏、「嬢様お精が出ますね、令夫人御苦労でございます。」なかなか場数功者かな。

照子は軽く挨拶して、「これはようこそ。何ぞ御気に召したものはございませんか。」

「ありますともさ、ははは、ありますともさ。まずこれが可し、それからこれも可しと、〆て三個頂戴いたします。