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ひんみんくらぶ

貧民倶楽部

泉 鏡花

「北海道毎日新聞」1895(明治28)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 55,333 字 · 111 页

青空文庫

ちょいと御勘定下さい。」

照子は頤にて数え、「二円八十銭……。」と言い懸けて莞爾と笑い、「お安いものよ、ねえ貴下。」予算よりは三倍強なるに「えッ。」と眼をりしが、天なるかなと断念て、「以後は正札附になすってはどうです、その方がお手数が懸りますまい。」

我慢強き男というべし。

「御注意難有う存じます。」と伯爵夫人が御会釈あり。取出だすは折目無き五円紙幣。「これで。」と差出だせば、「はいはい。」と取って澄したもの、剰銭を出ださん気色も無し。官吏始めて心着き、南無三失策ったりと思えども、慈善のための売買なれば、剰銭を返せと謂い難く、「こりゃ体のいい強奪だ。」と泣寝入に引退りぬ。後に二人は顔見合せ、徳孤ならずと笑壺に入る。

店頭に今度は婦人、この会場に入るものは、位ある有髯男子も脱帽して恭敬の意を表せざるべからざるに、渠は何者、肩掛を被ぎ、頭巾目深に面を包みて、顔容は見えざれども、目は冷かに人を射て、見る者を慄然とせしむ。

照子の顔をじろりと視め、「おい、姉様。こりゃ何程だい。」

冴えたる月に一片の雲懸れり。照子は顰みぬ。

「ちょいとお婆様。」

婦人は照子の答えざるを見て、伯爵夫人を婆様呼わり、これもまた異数なり。