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ひんみんくらぶ
貧民倶楽部
泉 鏡花
「北海道毎日新聞」1895(明治28)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 55,333 字 · 111 页
やっぱり人間が住んでたのか。ヘンよしてもくりゃ、憚りながら、犬の小屋としか思われねえ。さてまた意地悪く一軒も燈明を点けぬぞ、夜だか昼だか一向無茶だ。」と四廻をきょろきょろ、「ふむ、此家でもう一度尋ねてみべい。」
倒れ懸けたる表の戸、手をもて開くるを要せず、身を斜にして容易く入るに、いまだ燈火を点ぜざれば、ただこれ暗澹物色を弁ぜず。悪臭縷々来りて人を襲えり。
「ちょいと御免なさい、御免なしい。」と三吉的処も無しに声を懸けて、奥より人の出づるを待てば、
「誰方へ。」と唐突に打驚き、「少しものが。……」と謂えば「何だの。」と立ちたる膝の辺に声するに、三吉また驚きて、
「おや、黒闇がものを言うぜ。」と反返りしも道理なり。
鮫ヶ橋界隈の裏長屋は、人を容るる家と謂わんより、むしろ死骸を葬る棺と云うべし。土間無く、天井無く、障子襖無く、壁一重にて隣を分ち、大戸一枚道路を隔てる、戸に接してわづかに三畳乃至五六畳の一室あるのみ。三吉が膝とほぼ直角をなして(はてむずかしい形容だ、)打臥したる天窓ありしが、この時むくと起直りて、
「団扇の骨はいまだに仕上りませぬ。」と皺枯声、「いえさ、ちと御聞き申したいんで。