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ひんみんくらぶ

貧民倶楽部

泉 鏡花

「北海道毎日新聞」1895(明治28)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 55,333 字 · 111 页

青空文庫

」とつッぱしる。

これ皆お丹がなせる業なり。

狼藉者の一隊はさすがに警官を憚りて、大坂を下りんとする交番の此方に猶予いぬ。「それ目潰。」とお丹の指揮に手空の奴等、一足先に駈出だして、派出所の前にずらりと並び、臆面もなく一斉に尾籠の振舞、さはせぬ奴は背後より手を拍きて、「鳴るは滝の水。」と囃し立つる前代未聞の悪戯に、巡査何とて黙すべき。「こらっ――」

見張員と休息員と無頼漢等を引挟んで、片手に一人ずつ引掴めば、洩れたる者も逃げんとはせず。

「へん他人の家へ垂込みやしめえし、何のこれ往来だ。」「田圃にしてみや肥料になるぜ。」

としらふで冷罵れば、巡査は全身の怒気頭上に上りて、「無礼者め。」ともう血眼、二ツ三ツ撲りつける。

「ヤ撲ったな。ああ、痛え。」「おお、痛え。済まねえやい、木や土で造えた木偶じゃねえ。」「血のある人間だ、さあどうする。」とくってかかる混雑紛れ、お丹等老婦人を見咎められず、やすやすと通抜けたり。

「はてな、地獄の戸が開いた。」

車夫三吉を取挫ぎて、美人を労りたる屠犬児は、訝かしげに傾聴せり。

渠が立てる処より間遥に隔りたる建物の戸を開閉する音なるが、一種特別の響あれば、闇夜にも屠犬児は識別せるなり。