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にせさつじけん

贋紙幣事件

甲賀 三郎

「少年倶楽部」1930(昭和5)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,495 字 · 17 页

青空文庫

僕は知っているけれども、之は普通のインキじゃない。印刷用の上等のインキなんだ。念の為にペンキ屋があるかと聞いて見たがないと云うし、田舎に印刷屋がある筈もない。おかしいなと思って、他の犬を調べて見たが、一匹だけ、ホラ、茶の斑のお寺の犬の脚の裏にベットリと同じインキがついているんだ。白い犬と斑犬は親友らしく、いつも一緒にふざけているらしい。そこで、僕はお寺へ行って見る気になったのさ。そうしたら、二匹の犬がお堂の縁の下へ駆け込んだろう」

「うん」僕はうなずいた。「それで、君はわざと五十銭銀貨を落して、縁の下へ潜りこんだのだね」

「そうなんだよ。けれども、実は僕はあの時には未だ何にも分らなかった。所が、お寺の和尚さんが僕をひどく叱りつけて、銀貨を探していると云ったら、銀貨をやるから縁の下には潜るなと云ったろう。あの時に僕はふと怪しいと思い出したんだ。和尚さんの様子が只事じゃなかったからね。二匹の犬はどこで印刷に使う赤紫のインキを踏んだのか知らないけれども、仮りにお堂の下で踏んだものとしたら、そして和尚さんがお堂の下を見られるのを嫌がっているとしたら、大いに怪しくなって来るじゃないか」