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あかいステッキ

赤いステッキ

壺井 栄

「中央公論」1940(昭和15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,482 字 · 23 页

青空文庫

事実また、克子は多少は見えもする。お母さんの商売が毛糸屋であることも、克子に豊富な色の名をおぼえさせ、同じ年ごろのどこの子よりもよく知っていた。しかも克子独特の機知で、ゆたんぽがバケツ色をしているなどという。だが、一歩外へ出れば、ただ勘で動いているような克子を、世間ではめくらとしてより通用しないものと見ているにちがいなかった。

「めくらいうたら見えんことじゃのに、克は見えるのに」

克子は半分泣きかけていう。

「どれどれ、めくらかどうか見てやる」

お母さんは克子を引きよせ、編んでいた毛糸の玉をその手に握らせて、

「さあ、何色じゃ、これは」

克子は小さい手の甲で涙を横なでにし、毛糸を目とすれすれに近づけていって、

「キイロ色とミドリ色と二あつ」

と、その縒り糸を正確に答えた。

「ほうら、めくらじゃなかった」

そういわれると、もうにこにことなる克子であった。それでもまだ不平らしく、

「みんなが克のことだけを、めくら、めくらいうんで」

お母さんはそっとしてある内証ごとをあばきたてられるような気がしてつらかった。めくらではないといい聞かせ、そう考えさせようとしているのは、自分だけのはかないなぐさめなのであろうか。