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あかいひめとくろいおうじ

赤い姫と黒い皇子

小川 未明

「童話」1922(大正11)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,237 字 · 9 页

青空文庫

「私は、つい皇子を目のあたりに見られませんでした。しかし、たしかに聞いてまいりました。皇子は御殿から外に出られますときは、いつも黒い馬車に乗っていられます。そして、いつも皇子は、黒のシルクハットをかぶり、燕尾服を着ておいでになります。そして片目なので、黒の眼鏡をかけておいでになるということです。」と申しあげました。

お姫さまは、これを聞くと、前の家来の申したこととたいそう違っていますので、びっくりなさいました。すぐに縁談を断ってしまおうかとも思われましたが、もし、そうしたら、きっと皇子が復讐をしに攻めてくるだろうというような気がして、すぐには決しかねたのであります。

やさしい心のお姫さまは、片目であるという皇子の身の上をかわいそうにも思われました。そして、お嫁にいって、なぐさめてあげようかとも思われました。毎日のように、赤い姫君は、ぼんやりと遠くの空をながめて、物思いに沈んでいられました。すると、高い黒のシルクハットをかぶって、黒の燕尾服を着て、黒塗りの馬車に乗った皇子の幻が浮かんで、あちらの地平線を横切るのが、ありありと見えるのでありました。

雨の降る日も、この黒塗りの馬車は駆けていきました。