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あかいろうそくとにんぎょ
赤い蝋燭と人魚
小川 未明
「東京朝日新聞」1921(大正10)年2月16日~20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,570 字 · 14 页
人間は、魚よりもまた獣物よりも人情があってやさしいと聞いている。私達は、魚や獣物の中に住んでいるが、もっと人間の方に近いのだから、人間の中に入って暮されないことはないだろう」と、人魚は考えたのであります。
その人魚は女でありました。そして妊娠でありました。私達は、もう長い間、この淋しい、話をするものもない、北の青い海の中で暮らして来たのだから、もはや、明るい、賑かな国は望まないけれど、これから産れる子供に、こんな悲しい、頼りない思いをせめてもさせたくないものだ。
子供から別れて、独りさびしく海の中に暮らすということは、この上もない悲しいことだけれど、子供が何処にいても、仕合せに暮らしてくれたなら、私の喜びは、それにましたことはない。
人間は、この世界の中で一番やさしいものだと聞いている。そして可哀そうな者や頼りない者は決していじめたり、苦しめたりすることはないと聞いている。一旦手附けたなら、決して、それを捨てないとも聞いている。幸い、私達は、みんなよく顔が人間に似ているばかりでなく、胴から上は全部人間そのままなのであるから――魚や獣物の世界でさえ、暮らされるところを見れば――その世界で暮らされないことはない。