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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

03 むじな長屋

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,416 字 · 53 页

青空文庫

「なにか用か」

「話があるんだ」と半太夫は云った。

「まだ朝飯まえなんだ」

「御同様だ、はいってくれ」

登はしぶしぶ森の部屋へはいった。

「どこへいっていたんだ」

「どこにも」と登は肩をすくめた、「飯まえにちょっと歩いて来ただけさ、それがどうかしたのか」

「おれは、――」と半太夫はどなりかけたが、じっとこらえて、静かに云った、「新出さんがひどく気を昂ぶらせているから、そのつもりでいてくれといいたかったんだ」

登は黙った。

「さっき与力から呼び出しがあって、新出さんは詰所へいった、いっしょに来いと云われておれもいったんだ」と半太夫はややひそめた声で云った、「呼んだのは松本三左衛門どの、肝煎の小川氏(所長)も同席で、かよい療治の停止と、経費三分の一を削減すると云われた」

かよい療治はずっと以前に停止されていたのだ、と半太夫は説明した。養生所の増築をし、入所患者の数をふやすと同時に、正式にはかよい療治は許されなくなった。しかし実際には不可能なことであった。入所する患者を七十余人から百五十人に増しても、かよい療治に来る者は年間に少なくて三百五十人、多いときには七百人を越すこともある。