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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

05 徒労に賭ける

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,113 字 · 35 页

青空文庫

岡場所といわれるもので、棟割り長屋が並んでおり、一軒に女が二人ときめられていた。むろんそれは表向きのことで、停止されたかと思うと、いつか許可になったり、つねに取締りの寛厳が繰り返されるから、娼家の軒数も女たちの数も一定してはいなかった。

去定は十日に一度くらいの割で、その娼家街へ外診にいき、強制的に女たちを診察し治療してやっていた。それは二年まえからのことだそうで、森半太夫の話によると、一昨年の秋に、三人の娼婦が養生所へ救いを求めて来た。三人とも病毒に冒されているし、極度の栄養不足のため、殆んど餓鬼のようになっていた。去定は応急の手当をしておいて、彼女たちの雇い主を呼びだしたが、そんな女は知らないといって出て来なかった。そこで町方の役人に同行を頼み、みくみ町へでかけていってみた。

――この世に悪人はない、この世界に悪人という者はいない。

養生所へ帰って来た去定は、独りでしきりにそう呟いていたそうである。それは「悪人がいない」ことを認めたのではなく、悪人などいる筈がない、ということを自分に云い聞かせているような調子だった、と森半太夫は語った。救いを求めて来た三人のうち、一人は死に二人は半年ばかり療養したうえ、ほぼ健康をとり戻し、一人は水戸在の実家へ帰ったが、残った一人は逃亡してしまった。