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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

06 鶯ばか

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,626 字 · 45 页

青空文庫

おけいが責めるのは当っていないし、当っていないということはおけい自身も察しているに違いない、と登は心の中で思った。

「ねえ先生」とおけいは歩きだしながら云った、「お願いですから長坊だけは助けて下さい、死んじまった三人はしようがないけれど、せめて長坊だけは助けてやって下さい」

「やってみよう」と登は答えた、「私にできる限りのことはするよ」

五郎吉の家には、おけいのほかに二人、近所の女房が寝ず番をしていた。長次は眼を大きくみひらき、口をあいて、短い急速な呼吸をしていた。仰向きに寝たまま、ときどき頭を左右に振り、そして力なく呻いた。

「長次――」枕許に坐った登は、行燈を近よせるように頼んで、長次の顔を覗いた、「私だよ、どうした」

「おれ、泥棒したんだよ、先生」と長次はぞっとするほどしゃがれた声で云った、「そのことを先生に云いたかったんだ」

「そんなことはあとでいいよ」

「だめだ、いま云わなくちゃ、いまだよ、だから先生に、来てもらったんだ」まるでおとなの話すような調子であった、「おれ、島屋さんの裏の垣根をね、先生、聞いてるかい」

「聞いてるよ、長次」

「島屋さんの裏の垣根をね、ひっぺがして、持って来ちゃったんだ」