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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

08 氷の下の芽

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,146 字 · 40 页

青空文庫

治療に来るのはいずれも襤褸を着た、汗と垢まみれの、臭くて汚ない行倒れか、それに近い貧乏人ばかりである。これらの世話だけでも手いっぱいなのに、外診の供もしなければならず、しかも給与は極めて少ない。初めに登がいやがったのが当然で、いま敢てここに残る、というほうが不自然なくらいであった。

「なんだ」と登が云った、「どうしてそんな眼でおれを見るんだ」

「なんでもないさ」と半太夫は答えた、「ただその話はいそがないほうがいい、機会をみて云いだすほうがいいと思うね」

「助言してくれるか」

「やってみよう」と半太夫が云った。

明くる朝、まだ暗いうちに、人の騒ぐ声で登は眼をさました。はっきりしない耳に、放してくれ、という女の叫び声と、抱き止めているらしい人声が、廊下の向うで聞えた。登はすぐに起きあがって着替えをし、部屋を出てそっちへいってみた。――廊下の掛けあかりの灯がまだ明るく、素足で踏む板敷は氷のように冷たかった。騒いでいるのは病室の戸口のところで、登が近よってゆくと、付添に来ている女たちが四人がかりで、暴れるおえいを押えつけているところだった。

「静かにしろ」と登が云った、「ここには重い病人がいるんだぞ」