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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

08 氷の下の芽

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,146 字 · 40 页

青空文庫

ように感じた。

おえいは十歳のとき、下谷の蝋燭問屋へ奉公先を替えた。すると半年ほどして、姉が訪ねて来、「勤めが辛いから逃げる」と告げた。おりつは十四歳になっていたが、乱暴を極めた二年余の勤めで、躯はおえいとさして違わないほど、痩せていて小さかった。

――あたしはもうこんな汚れたからだになってだめだけれど、あんたはよく考えて、ばかなめにあわないようにしなさいね。

別れるときに姉はそう云った。

どうしたら親のくいものにならずに済むか、おえいはそれ以来ずっと、そのことばかり考えていた。父と母は相変らず、店へ来ては給銀を借り出していく、おはなの下に、またおすえという妹が生れて、「くらしに困る」というのが母の口実であった。このままでは、自分もすぐ姉のように売られるであろう、どうしたらいいか。そう考えているうちに、ふといい思案がうかんだ。

「お店のある池之端仲町の同じ町内に、松さんというばかがいました」とおえいは続けた、「十七か八でしたが、口も満足にきけず、洟と涎をたらしたまま、いつも町内をぶらぶらしていて、子供たちのほかには誰も構い手がないんです、あたしその松さんのことに気がつきました」