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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

08 氷の下の芽

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,146 字 · 40 页

青空文庫

と去定は云った、「食うに困って子に稼がせる親はあるが、丈夫な躯を持ちながらのらくらして、酒浸りになるために子を売る親はない、そういうやつは親でもなければ人間でもない、よく聞け、犬畜生でさえ、仔を守るためには親は命を惜しまないものだ、自分は食わなくともまず仔に食わせる、けものでも親はそういうものだ、きさまは犬畜生にも劣るやつだぞ」

おかねがなにか云い返そうとし、去定が「黙れ」とどなりつけた。

「あの娘は養生所で引取る」と去定は続けた、「きさまのことは町奉行に届けて、今後も子供たちをくいものにするようなら、然るべく処分をしてもらうからそう思え」

「そんな威しに乗るもんか」

「帰れ」と去定が云った、「このさき子供たちに手を出すと、自分の躯に繩がかかるぞ」

「そんな威しにひっかかるもんか」と云いながらおかねは立ちあがった、「へっ、町奉行だって」おかねは蒼くなり、ひょろひょろとよろめいた、「町奉行が怖くって江戸の町が歩けるかってんだ、曳かれ者の小唄みたいなことを云いなさんな、こっちは可笑しくって腹の皮がよじれちまわあ」

町奉行が束になって来たって、びくっともするおかねさんじゃあないんだから。