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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

08 氷の下の芽

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,146 字 · 40 页

青空文庫

「まさかね」

「いやそのとおり凄んだんだよ」半太夫が微笑したまま云った、「つまりお杉を嫁に欲しい、自分のことは神田佐久間町の大工、藤吉という者がよく知っているから、藤吉に訊けば自分のことはわかる筈だ、お杉の一生は必ず仕合せにしてみせる、そして、なにか妙な神様みたいなようなものを引合いにだして誓っていたよ」

「その人はどう云った」

「たじたじだったね、お杉の親元が荏原郡にある、そちらとも相談してみるが、自分には異存はない、と云っていたよ」

半太夫は口をつぐんで振返った。廊下で荒い足音と、女の泣き声が聞えたのである。

「いやだ、あたいいやだ」と泣き喚きながら、廊下をこっちへ走って来た、「あたいに触らないで、放して、いやだ、いやだ」

登は立って廊下へ出た。すると、ちょうど出会いがしらに、一人の娘が駆けて来て、彼に縋りつき、彼のうしろへ隠れた。そのとき向うから「押えていろ」と云いながら、去定が追って来、続いて四十がらみの女が、去定を押しのけるように走って来た。

「助けて」と娘は登にしがみついたままで云った、「あたいを助けて、あたいいやだ、いやだ、いやだ」

側へ来た女が「おえい」