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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

01 狂女の話

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,384 字 · 41 页

青空文庫

三人の姉妹の長女で、二女が十二、三女が七つ。おゆみだけ母が違っていた。おゆみの母は死んだのではなく、なにかの事情で離別されたか、自分で家出をしたかしたらしい。詳しいことは誰に訊いてもわからなかったが、母が違うということは、おゆみは幼ないときから勘づいていて、けれどもかくべつ気にもとめなかった。

おゆみは妹たちより際立って美しく、勝ち気でお侠なところはあったが、思いやりのふかい性分で、みんなに好かれた。継母にも、二人の妹にも、親類や近所の人たちから、雇人のあいだでも好かれたし、頼りにされた。かれらが頼りにしたのは、おゆみが跡取りの娘だからであろう。彼女は十四の年、つまりお杉が奉公にあがるまえの年に、婿の縁談もきまっていた。

こうして表面は無事に、平凡ながら仕合せに育ったが、おゆみ自身は早くから、人に云えない災難を経験していた。それはすべて情事に関するものであり、いちばん初めは九つのときのことだったという。

「あなたがお医者さまだから云えるんです」とお杉はしゃがれた声でささやいた、「そうでなければとてもこんなこと話せやあしません、そこをわかって下さいましね」