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ちょうかきんむ
超過勤務
山本 周五郎
「文藝朝日」朝日新聞社、1962(昭和37)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,619 字 · 31 页
青年は女の肩を捉まえた、「そうじゃないんだ、くすぐったいだけじゃなく、もっとほかの」
「しっ、誰か来るわ」女は青年を押しのけた、「ほら聞いてごらんなさい、あの足音」
「ちえっ」と青年が云った、「きみがじらしてるから悪いんだ、損しちゃったじゃないか」
「いきましょう、堪忍袋が残業してたのよ」女は青年を押しやった、「みつかるとうるさいじゃないの、早くう」
彼らはドアをあけて去り、ドアをそっと閉めた。
二人の去ったドアの反対側にあるドアがあき、なんだと云う声がした。誰が電燈を消したんだ、それとも停電かな。生気のない呟き声に続いて、スイッチの音がし、電燈が明るくついた。
「おかしいな」彼は室内を眺めまわしながら首をひねった、「自分で消したのかな、そんな覚えはないんだが」
彼は持っている帳簿を置き、大きなデスクに向かって腰をおろし、神経質に椅子のぐあいを直してから、並んでいるベル・ボタンの一つを押し、ボイス・パイプの蓋をあけた。
「給仕くん、お茶」
パイプの中へそう云うと、蓋を閉めて、ペンを取り、記帳にかかった。
七メートルに五メートルほどの、うす暗く湿っぽい