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あしのないおとことくびのないおとこ

足のない男と首のない男

坂口 安吾

「早稲田文学 第一三巻第七号」1946(昭和21)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,095 字 · 8 页

青空文庫

愈々空襲が始まる頃になると経済研究所もその筋につぶされてしまひ、私が神田の本屋をひやかしてゐるとブラ/\向ふから歩いてくる郡山にぶつかり、ヤア、どうしてゐる? そこの産報本部につとめてゐるよ、と言ふので、私は日本はもうダメだと思つた。私はそれまで世の中のくはしいことは知らないが、内閣だの、情報局だの、大政翼賛会だの、みんなそれぞれ筋の正しいもので、産報といふところなどもさうだらうと思つてゐた。然し、郡山千冬が務めてゐるやうでは、これはもうマトモなところではない。浅草の裏道と同じ人生の裏道で、インチキな仕事をしてゐる事務所にきまつてゐるのである。日本の堕落こゝに至る、私が暗然として昔の救世軍本部を仰いで祖国のために暗涙を流したのもムベなるかな、今日つひに敗北し、戦争十年の日本の腐敗、官界軍閥の堕落のあとを眺めれば、郡山などは最もマトモな紳士であつたではないか。大将だの大臣だの長官などゝいふのはみんなムジナかナマズか何かであり、郡山はボルネオの国民学校の優等生で全く裏も表もないそれだけの正真正銘の人間だつたのである。

彼はこれだけ忙しい人生の合ひま/\にゲーテだのシラーだの時にはゴッホの絵本などゝいふどこから種本を見つけてくるのやら飜訳といふ仕事をやり、私が小説の本をだしたよりもたくさん飜訳の本をだしてゐる