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のうそん

農村

宮本 百合子

「多喜二と百合子 七号~十三号」多喜二・百合子研究会、1954(昭和29)年12月~1955(昭和30)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,223 字 · 97 页

青空文庫

主屋に行くと誰も見えない。真黒いミノルカとレグホンが六七羽のんきにブラついて居る。中を一寸のぞいたけれ共人影が見えないので誰かにきいて見ようと思って又牛舎の方へ行きかけると、裏の方から、主婦が出て来た。

「まあいらっしゃいまし。よっぽどお寒うございますねえ、お上りなさいまし。

と気味よく云う。

自分で結う丸髷をきれいに光らせて縞の筒袖の上から黒無地の「モンペ」をはいて居る。草鞋を履いてでも居そうなのに、白足袋に草履があんまり上品すぎる。

足の方を見ると、神社の月掛けを集めて廻る男の様な気がする。年の割にしては小綺麗に見える人だ。二夫婦一緒に居るのだから気がねが多いと云って居る。いそがしそうだから立ったまま用向を云って今留守な主人が帰ったら伝えて呉れと云って置く。

お上んなさいお上んなさいと進められてもいそがしそうだからと云ってかえりかけてる処へ大きな包をしょってお繁婆が来た。買物をたのんだと見える。

しゃぼんだの足袋だの砂糖だのをならべる。

「こんなものまで町でなければありませんのですからねえ。

と云って居る。

足袋が目立って不恰好だ。

砂糖が二銭上ったと云いながら黄色い大黒のついた財布を出して少し震える手で小銭をかぞえて縁側にならべる。