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きんせいかいじんでん
近世快人伝
夢野 久作
「新青年」1935(昭和10)年4月号~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,469 字 · 157 页
貴様は話がようわかる」
「そんならその保険に掛ける金は、誰が掛けるとかいネエ。貴様達が掛けるか……」
「馬鹿云え。知れた事。貴様の保険じゃけに、貴様が掛けるにきまっとるじゃないか」
「……馬鹿ッ……帰れッ……」
青柳に大喝された水野は、上り口から飛降りて、下駄を提げたまま二三町無我夢中で走った。その白足袋を宙に舞わして逃げて行った恰好が、今思い出しても可笑しいと青柳喜平氏は筆者に語った。
「怪しからん親友もあればあるものです。私が肥っているのを見て煮て喰いとうなって保険の鍋に這入れとすすめに来る奴です。彼奴等の無学文盲にも呆れました」
吉報を待ってチビリチビリやっていた仁三郎は、門口から悄然と何か提げて這入って来た水野を見てビックリした。
「どうしたとや。何をば提げて来たとや」
水野は黙って下駄を出して見せた。頭を掻きながらタメ息を吐いた。
「詰まらん。青柳は知っとる」
篠崎もソレとわかって長大息した。
「そうか。知っとっちゃ詰まらん」
末後の一句、甚だ無造作。本来無一物。尻喰え観音である。こうなると人格も技養もない。日面仏。月面仏。達磨さん。ちょとコチ向かしゃんせである。