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ついおく
追憶
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,363 字 · 35 页
その時から私の知って居る以外の大人共は非常に減ぜられた価値を持って私の前に現われて来たのである。
其那事があってからじきに叔父は家に帰って来た。けれ共頭の繃帯は少し薄くなった丈で常に気分が悪そうに悲しそうであった。
時には、やつれた髭の長くなった頬に止め度なくボロボロと涙をこぼしながら、抱かられて訳も分らず悲しくなった私と一緒に長い事啜泣きして居た事もあった。
その時分には、彼の私に対する愛情は前よりも余程熱情的になって来て居たらしい。
彼が無言で涙組んで居るのを見ると、私には言葉には云えないでも彼の心はすっかり感じられる様になって二つの感傷的な心は、非常な調和と帰一を見出し得て居た。
もうじき死のうとして居た彼の心には種々の霊感、感激、暗示に満たされて居たのであろう。
彼の最も深い苦悩と歓喜は此の時に一番群がり湧いて居たのであろう。
若し彼が言葉を持って居たらさぞ動かさずには置かない事々を物語ったで有ろうけれ共彼は只祈る事丈を知って居た。
実際彼はそのころ祈祷の明暮れを送って居たのである。
其の日は大変天気が好かった。
多分十月の末であったと思うが、高々と澄み渡った空の下に木々の葉が皆金色に踊って居る様な日和であった。