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たいほしゅぎしゃ

退歩主義者

坂口 安吾

「月刊読売 夏期臨時増刊号」1949(昭和24)年7月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,703 字 · 20 页

青空文庫

「オイ、一晩、とめてくれ」

「いけねえよ。泊ることは差支えないが、泊めっぱなしというわけに行かないからな。お前は図々しいから、メシを盗んで食うだろう。それがあるから、いけないよ」

「それは腹がへりゃ仕方がないから、盗むかも知れないが、一晩のことじゃないか」

「一晩だって、お前の胃袋は底なしだからそうはいかない。ほかへ当ってみな」

彼は女優はダメなのである。入団匆々みんな一々当ってみて、例外なくアッサリ肱鉄をくっているから、見込みがない。

リヤカーはとっくに売りとばして酒を飲んでしまったし、まゝよ、フトンを売って飲んでやれ、あとは野となれ山となれ、彼はその晩、酔っ払って、野宿した。この社会は、あたたかいようで、大変つめたいところである。それは馬吉の気質のせいにもよるのである。彼は人にタカッて飲むことはあっても、人にタカられないチャッカリ屋で、品川一平のアパートに居候をきめこんでいても、二斗の米は自分だけで食い、リヤカーを売っても、自分一人でたのしんで、人におごったことがない。これは馬吉天来の気質であるが、この社会では、たいがいの連中が同一気質で、奴め今日は持ってやがるなと馬吉が睨んで飲み屋までついて行っても、自分だけ飲んで食って、馬吉には何もくれない。