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ゆけるマクシム・ゴーリキイ

逝けるマクシム・ゴーリキイ

宮本 百合子

「婦人公論」1936(昭和11)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,396 字 · 17 页

青空文庫

それにしても、パリへ二度もゆき、フランス小唄のうまい、美食家の「美しく、煙草を吸い、奇智に富んで、男の知人をゆすぶること」がやめられない貴族女学校出のオリガに、何故ゴーリキイは卒倒する迄ひきつけられたのであったろう。ゴーリキイは単に雌でない女を求めていた。肉体と肉体との接触だけで終らず、その奥から生活を清め、高める力の生れる、そういう生活のこもった対象として婦人を見ずにいられなかったゴーリキイは、偶然の機会から彼の旺盛な発展の道の上に現れたオリガに彼の念願の全部を素朴に投げかけたのであった。

この三人暮しの有様は、オリガがなくなって後書かれた「初恋について」の中に色濃やかな鮮やかさで、情愛ふかく描かれている。

コロレンコとの友情が深められたのもこの時分であり、自分の文学的労作についてだんだん真面目に考えるようになって来たゴーリキイは、オリガとの生活が自分の踏んで来た道を脱させる力をもつことを理解しはじめた。オリガは若いゴーリキイが自分に傾けた熱情について非常に正当な賢い理解をもった。二人は互に確かりと抱き合い、黙ったまま、いくらか悲しい心をもって別れた。