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かとにん
過渡人
豊島 与志雄
「帝國文學 第二十二卷第四號」1916(大正5)年4月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,206 字 · 41 页
それもどうだかね。……がそれはそれとして、もしまた他の者があんなことをやって、そして同じ様な境遇で同じ様な懇願をしたら、その時はどうしようというんだい。」
「その人の人物によって判断するより外に仕方はありませんわ。」
「そうだろう。そういう考えもある。……然し此度の事件に対してはお前は全く無関心だね、そしてお前の関心事はただ笹尾だけだ。僕もそういう心の向け方は知っている。つまり事件を見ないで人間だけを見るんだね。感情家や女は皆そうなんだ。然し用心しなければいけない。事件を見ないで人間だけを見てるつもりでいる時、往々人間をも見ていないことがある、そして自分の感情きり見ていないことがある。その後から悪魔が舌を出しているよ。」
「それではあなたはどうなさるおつもりですか。」
「俺は事件と人物とを両方共よく考えた上でそれから判断するんだ。」
「ではあなたは笹尾さんをもう使わないおつもりでございましょう。」
「それはどうだか分らないが、兎に角お前ほど同情はないがお前ほど無慈悲でもない。」
「私が無慈悲ですって!」と常子は眼を輝かした。そして彼女は如何に笹尾のために気の毒がっているか、如何にその老母を憐んでいるかを述べたてた。