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かとにん
過渡人
豊島 与志雄
「帝國文學 第二十二卷第四號」1916(大正5)年4月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,206 字 · 41 页
」
「お父さんの前へ出ると何だか圧迫されるような気がすると云っていました。あんなことを働いたからというばかりでもないでしょう。そして種々なことを考えさせられたと云っていました。それからまた、出発前にお目にかかりたいけれどと云いながら泣き出しそうな顔をしていました。笹尾は小さい時分からお父さんには随分世話になったんでしょう。然しこんどの事件は何だかお父さんのやり方も変だったかも知れません。」
「俺のやり方が?」
「ええ。」
それきり二人は暫く黙った。
矢島さんの屋敷は古くから伝った広い地面を持っていた。木立があったり、広い庭が作られたりしていた。庭の奥に、矢島さんの父が老年の慰みに建てた小さい離れがあった。戸がすっかり閉め切ってあった。二人は芝生や植込みの間を縫うて其処まで達した時に、戸外の小さい椽に腰を下した。月の光りが一面に青白い布を拡げたようで木の葉がきらきら光っていた。
「笹尾のことでは俺も随分心配したよ。」矢島さんは吐き出すように云った。
秀男は黙っていた。で矢島さんはまた言葉を続けた。
「笹尾に対する俺の気持ちは或は余り複雑すぎたのかも知れない。