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かとにん
過渡人
豊島 与志雄
「帝國文學 第二十二卷第四號」1916(大正5)年4月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,206 字 · 41 页
その翌日矢島さんは頭がひどく惘然としているのを意識した。そして夜のことを遠い昔のことのようにして思い起してみたが、それは明るい昼の光りにすぐぼんやりとしてしまった。そして彼はいつもの時間に会社に出かけて行った。
その時矢島さんは、四月の光りを浴びて歩きながら、これから日記をつけてみようとふと考えた。どれ位続け得るかは自分にも分らなかった。「然し兎に角今日から一つ日記をつけてみよう。」そして矢島さんは右手を挙げて髭を撚った。がその動作が自分でも変に可笑しかったので、あたりをぐるりと見廻してみた。春の日が大地の上を一面に照していた。