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かさんかマンガンすいのゆめ

過酸化マンガン水の夢

谷崎 潤一郎

「中央公論 七十周年記念十一月特大号(第七十年第十一号)」1955(昭和30)年11月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,458 字 · 25 页

青空文庫

私も見に行く」と云っていたのであった。が、中途で退場したところを見ると、矢張幾分ショックを恐れる気持があったのかと察せられる。予が、前半よりも後半の方が凄かったこと、クリスチナの死ぬところとミシェルが偽眼を外すところがちょっと薄気味悪かったことを語りしに、「それなら見ないでよかったわ」とのことなりき。

それより一二時間休憩、五時長谷川を辞し、銀座の小松ストーア等々に立ち寄り八重洲口に至り、大丸地階辻留にて夕食を取る。此の辻留の京料理も予等を東京に惹き着ける魅力の一つなり。殊に本年は東京方面に用事ありていつ頃京都へ帰り得るか今のところ豫定立たず、そのためひとしお関西料理に憧れつゝあり。分けても目下食べたいのは鮎と鱧なり。熱海の夏は鰹と鮪には不自由しないが、鮎は早川と狩野川のものにて、到底保津峡の鮎のような訳には行かず、鱧も近頃は伊豆山方面にて手に入ることがあり、たまに買っては見るけれども、味も骨切りも悪く、あとで一層関西の鱧が恋しくなるばかりなり。家人は鰹は生臭いと云って口にしたがらず、せめて近々東京へ出て辻留の牡丹鱧をたべたいと此の間より云い暮らしていたのであった。