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かさんかマンガンすいのゆめ
過酸化マンガン水の夢
谷崎 潤一郎
「中央公論 七十周年記念十一月特大号(第七十年第十一号)」1955(昭和30)年11月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,458 字 · 25 页
牡丹鱧とは鱧の肉を葛にて煮、それに椎茸と青い物を浮かした辻留得意の吸物碗にて、日本料理の澄まし汁としては相当濃厚で芳潤な感じのものなり。今夜の辻留の献立は、ふくこ(鱸の子)の洗い、さゝ掻き牛蒡と泥鰌の赤だし、茄子と豆の胡麻あえと鰯の生薑煮と梅干の小皿、小芋を揚げたのと鶏のじく煮と粟麩の小皿、素麺の小皿、飯を圓く型で打ち出したものに奈良漬と生薑を添えた小皿、鱧のつけ焼と待望の牡丹鱧、なおその外に京より取り寄せた鮎の大きいのがありますからとてその塩焼に蓼酢を出したが、これは全く豫期しなかった珍味であった。食後に大阪鶴屋八幡の葛餅があったが、さすがに腹が一杯で手が出ず。いつも日本料理だとつい安心して食い過ぎるのであるが、これだけ食べると洋食や支那料理以上にカロリーを取ったように思われ、血壓が上りはしなかったかと心配になる。食後直ちに乗車口に駆けつけ午後八時過ぎの電車に乗る。何か事故があった様子にて廿一分発のところが数分遅れて発車。今時分の二等車は空いている筈なのに今夜は大船辺に至るまで満員にて人いきれのため一倍蒸し暑し。十一時近く熱海に着。帰宅するや否や一浴して浴衣に着かえ、庭の芝生を蹈んでデッキチェーアに凭りつゝ伊豆半島の夜景を望む。