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みちづれ

道づれ

宮本 百合子

「文芸」1937(昭和12)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,491 字 · 41 页

青空文庫

「おい、幸子にそう云って……」

小さい男の子とそれから三つ四つ年かさの幸子の弟妹らしい女の児とが首を重ねて店先をのぞいた。

「お、姉さんにお客様だって云いな」

父親は、

「どうも狭っくるしいところで……さ、お入んなすって……」

店の土間には二つ腰かけがあった。

「さ、おかけなすって。――おい、どうした」

店の奥は一間しかないらしく、そこから母親らしい圧し殺した声で、

「何だろう! ちょっとこれをひっかけてさ、何もお前……」

しきりに何か云っているのが聞えた。みほ子は、気の毒そうな顔をかくすことが出来なくなって、

「あの、ほんとにちょっとおよりしたんですから……」

と、舌がひっかかるような軟い調子で云った。

「およっていらしたんなら、もう結構ですから……」

「いいえ、なに……おい、おい」

こちらへの云いわけの心持で母親はすこし声高に、

「ほんとにまあ……さ、どうしたって云うんだろう」

ついそこの物蔭に立っている幸子は泣いているらしい様子であった。体が箪笥の環にぶつかった音がして、

「いや! いやったら!」

堰を切ったように幸子の甲高な声が涙に溺れて店まで響いた。

「こんな家みられて……」