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どうけやく

道化役

豊島 与志雄

「中央公論」1934(昭和9)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,093 字 · 42 页

青空文庫

人の好意を常に当にし、それに甘えてつけ上った要求をもち出すのは卑劣だ、というのが緒方氏の意見だった。実際私は彼に二三度金を借りたことがあったし、母も生存中何かと世話になったのだった。彼は私に二つの問いを出した。川に溺れてる者があって、飛びこんで助けようとすれば、こちらも必ず溺れ死ぬときまってる場合、君はそれでも飛びこむか、どうだというのである。ばかげた問いだと私は思った。一人死ねばよいのに、何で二人死ぬ必要があろう。ところが、それが親子夫婦の間だったらどうだ、それでも……とすぐに云い切れるか、との再度の問いになった。私が黙って考えていると、君は世の中の人をみな親子夫婦の間柄と同様に思ってる、それが君のそもそもの考え違いだ、とそう結論された。そして彼はなお云い続けた。

「溺れてる者を助ける普通の場合にせよ、その者が、後で必ず何度も水に落込むと分ってる場合、君はそれでもその度毎に飛び込む勇気があるかね。または、始終その者を監視して水に落込まないようにしてやるだけの好意があるかね。そんなことはばかばかしいと思うだろう。僕から見れば、君は好んで何度も水に落込む男だ。