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みちづれ

道連

豊島 与志雄

「中央公論」1924(大正13)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,366 字 · 37 页

青空文庫

君にもその気持が分るかね。

なに、分らないが面白いって、初めて僕の話に興味を持ち出したね。じゃあこんどはそんな下卑たんじゃなくて、もっと上品なのを話してきかせよう。が先ず、煙草を一服さしてくれ給え。

四

これは前の話からずっと後で、僕が大学卒業に近い時のことだった。

その頃僕は各方面に生長し続けていて、云わば生活機能が最も盛んに活動していた。夜遅くまで酒を飲み廻ったり、旨い物を探し歩いたり、時には女を買うこともあるし、また真剣に恋文を書きもするし、一方では真面目に勉強もして、あらゆることに好奇心が持てた。身体も至極丈夫だった。

その年の夏の休暇に、卒業論文を書きに、僕は或る山奥の淋しい温泉へ行った。所が卒業論文なんてなかなか厄介なもので、初めはなに訳はないと高をくくっていたのが、いざとなると非常に手間取れて、九月になってもまだ半分も書けていなかった。で僕は八月一杯で帰る予定だったのを延して、九月末まで滞在することにした。どうも東京に帰ってもまだ暑いし、学校の講義は十月にはいってから気が乗り出すのだし、九月一杯はその山奥に落付いてる方が得策だった。