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みちづれ
道連
豊島 与志雄
「中央公論」1924(大正13)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,366 字 · 37 页
風のように音もなく、背中にぴったりくっついてくる。ゆっくり歩けばそいつもゆっくりとなるし、早く歩けばそいつも早くなる。恐くて恐くて、とても後ろを振返る元気などは出ない。命とたのむ提灯の火は、じじじ……と燃えつきようとしている。
僕はその時くらい恐ろしい思いをしたことはない。がどうにか歩き続けられたのは、父がその道を夜遅く歩き馴れてるという考えからだった。僕の父は始終出歩いていて、自然と町で酒を飲むことなんかも多かったが、いくら夜が更けても、もう明け方近くなっても、またいくら酔っ払っていても、大抵は一人でその一里の道を歩いて帰って来た。而も田舎の人に似合わず、闇の夜でも提灯もつけずに、白鞘の短刀を懐にして、平気で歩いて来たのでるる。それを母が心配して、二人でいざこざ云ってるのを、僕は幾度か耳にしていた。
で僕は、父が何度も通った道だ、始終夜更けに通り馴れてる道だ、とそう心の中で繰返しながら、その一事に縋りついて歩み続けた。それでも用捨なく、恐ろしい影は背後にぴったりくっついてくる。
そういうことがだいぶ続いた後、もう村まで半分余りも行った頃、背中の影が拭うようにふーっと消えた。