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せんきょさつじんじけん
選挙殺人事件
「小説新潮 第七巻第八号」1953(昭和28)年6月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,782 字 · 28 页
殴り合いの一方はサクラだ。彼の目に見えたところだけでは、殴られた方がサクラであった。殴った方は運動員の一人で、三高ではなかった。寒吉が駈けつけた時には、もう人だかりができていた。殴り合いは終っていた。サクラはホコリを払って立ち去るところであった。また、けたたましく笑いながら。
一人が仲間にだかれて泣いている。泣いているのは三高であった。三高は両側から抱くようにして選挙のトラックへ連れ去られた。その泣き男が演説をぶッた候補者だということに気のつく者もいないらしい。ケンカもここが一ツじゃないし、泣き男も彼だけではなかったろう。色とりどりの酔ッ払いがここを晴れと入り乱れているのだ。
三高の一行はトラックで去った。サクラはそこには現れなかった。
三高のトラックはまッすぐ自宅へ戻った。酔ッ払ッて選挙演説はぶてないから、この日はこれで終りらしかった。
三高が泣いて連れ去られる時、寒吉はこれが終りと直感したから、彼が泣いて何を喚いているのかとすぐ後までズカズカ近づくと、彼の喚きは実に人々のオヘソをデングリ返してしまうほど悲痛また痛快なものだった。
「ああ無情。ああ……」