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せんきょさつじんじけん

選挙殺人事件

坂口 安吾

「小説新潮 第七巻第八号」1953(昭和28)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,782 字 · 28 页

青空文庫

「自由党でしょうな。思想はだいたい共通しております。しかし、もっと中小商工業者をいたわり育成すべきです。それはワタクシの甚だしく不満とするところでありまして、またワタクシの云わんとするところも……」

演説口調になりかけたので、寒吉はそらすために大声で質問した。

「崇拝する人は?」

「崇拝する人?……」

「または崇拝する先輩。政治的先輩」

「先輩はいません。ワタクシは独立独歩です。一貫して独立独歩」力をこめて云った。彼の傍に芥川龍之介の小説集があった。およそ彼とは似つかわしくない本である。

「その本はどなたが読むのですか」

「これ? ア、これはワタクシです」

彼は膝の蔭から二三冊の本もとりだして見せた。太宰治である。

「面白いですか?」

「面白いです。笑うべき本です」

「おかしいのですか」

「おかしいですとも。これなぞは難解です」

こう云って一冊の岩波文庫をとりだした。受け取ってみると、北村透谷だった。

「学歴は?」

「中学校中退です。ワタクシは、本はよく読んだものです。しかし、近年は読みません」

「読んでるじゃありませんか」

彼は答えなかった。疲れているらしい。

「何票ぐらい取れると思いますか」