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じゃしゅうもん

邪宗門

芥川 竜之介

「東京日日新聞」1918(大正7)年10~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,184 字 · 79 页

青空文庫

粉微塵になった小屋の前には、あの無気味な摩利信乃法師が、薄色の袿を肩にかけて、まるで猿のように身をかがめながら、例の十文字の護符を額にあてて、じっと私どもの振舞を窺っているのでございます。これを見た私は、元よりすぐにも一刀浴びせようとあせりましたが、どう云うものか、あの沙門の身をかがめたまわりには、自然と闇が濃くなるようで、容易に飛びかかる隙がございません。あるいはその闇の中に、何やら目に見えぬものが渦巻くようで、太刀の狙いが定まらなかったとも申しましょうか。これは甥も同じ思いだったものと見えて、時々喘ぐように叫びますが、白刃はいつまでもその頭の上に目まぐるしくくるくると輪ばかり描いて居りました。

二十七

その中に摩利信乃法師は、徐に身を起しますと、十文字の護符を左右にふり立てながら、嵐の叫ぶような凄い声で、

「やい。おのれらは勿体なくも、天上皇帝の御威徳を蔑に致す心得か。この摩利信乃法師が一身は、おのれらの曇った眼には、ただ、墨染の法衣のほかに蔽うものもないようじゃが、真は諸天童子の数を尽して、百万の天軍が守って居るぞよ。ならば手柄にその白刃をふりかざして、法師の後に従うた聖衆の車馬剣戟と力を競うて見るがよいわ。