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さけぎらい

酒ぎらい

太宰 治

「知性 第三巻第三号」1940(昭和15)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,899 字 · 12 页

青空文庫

家の者に聞かせたくない話題なども、ひょいと出るかも知れぬし、それに、酒は勿論、酒の肴も、用意が無いので、つい、めんどうくさく、外へ出てしまうのである。大いに親しい人ならば、そうしておいでになる日が予めわかっているならば、ちゃんと用意をして、徹宵、くつろいで呑み合うのであるが、そんな親しい人は、私に、ほんの数えるほどしかない。そんな親しい人ならば、どんな貧しい肴でも恥ずかしくないし、家の者に聞かせたくないような話題も出る筈はないのであるから、私は大威張りで実に、たのしく、それこそ痛飲できるのであるが、そんな好機会は、二月に一度くらいのもので、あとは、たいてい突然の来訪にまごつき、つい、外へ出ることになるのである。なんといっても、ほんとうに親しい人と、家でゆっくり呑むのに越した楽しみは無いのである。ちょうどお酒が在るとき、ふらと、親しい人がたずねて来てくれたら、実に、うれしい。友あり、遠方より来る、というあの句が、おのずから胸中に湧き上る。けれども、いつ来るか、わからない。常住、酒を用意して待っているのでは、とても私は落ちつかない。ふだんは一滴も、酒を家の内に置きたくないのだから、その辺なかなか、うまく行かないのである。