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さけみずく

酒みずく

山本 周五郎

「朝日新聞 PR版」1964(昭和39)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,665 字 · 6 页

青空文庫

朝はたいてい七時まえに眼がさめる。すぐにシャワーを浴びて、仕事場にはいるなり、サントリー白札をストレートで一杯、次はソーダか水割りにして啜りながら、へたくそな原稿にとりかかる。原稿はずんずん進むけれども実感がない、嘘を書いているようで、躯じゅうに毒が詰まったような、不快感に包まれてしまう。私はそれをなだめるために、水割りを重ね、テープ・レコードの古典的通俗的な曲をかけるか、ベッドへもぐり込んでしまう。いっそこの瞬間に死んじまえばいいのに、などと独り呟きながら。念には及ばないだろうが、死にたいなどと云う人間ほど、いざとなると死を恐れるあまり、じたばたとみれんな醜態を曝すものだという。どんな死にかたをしようと、人間の死ということに変りはないのだが、世のひとびとはそこに大きな関心をもち、褒貶をあげつらう。やがて自分たちも死ぬのだ、ということは忘れて。

さて、ひるになるが食欲はまったくない。そこで客が来れば大いに歓談してグラスの数をかさね、来なければ陰気な気分で、やはり水割りのグラスをかさねるわけである。どうにもやりきれないときには、しきりに電話をかけて友人を呼ぶのだが、みな仕事を持っているのでなかなか「うん」