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さけみずく
酒みずく
山本 周五郎
「朝日新聞 PR版」1964(昭和39)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,665 字 · 6 页
私はいま二週間以上も酒びたりになっている。いま書いている仕事のためとは云わない、けれどもこの仕事は、半年もまえから計算し、精密なコンティニュイティを作り、それを交響楽と同じオーケストラ形式にまとめあげた。そうして書きだしたのだが、作中の人物は半年以上ものつきあいであり、誰が出て来てもみな古馴染で、小さな疣や痣や、めしの喰べかたや笑い声までがわかっていて、その男、または女の出番になると、うんざりして机の前から逃げだすか、酒で神経を痺れさせるほかはなくなるのである。いろいろ狼狽してみた。三浦半島へいったり、藤沢でだらしない遊びをし、二人の大切な友人に迷惑をかけたり、また華やかな街で五日も沈没したりした。
はたから見れば、これらはたのしい贅沢としかうつらないだろうが、当人は一刻々々が死ぬ苦しみなのだ。声に出して「ああ死んじまいたい」と、のたうちながら喚いたこともあった。
――酒みずく、という吉井勇の歌があった。酒びたりになるほかに、この世に生きている価値はない、というような意味の歌だったと思うが、もちろん正確ではない。違った意味の歌だったかもしれないが、いまの私にはそうとしか思えないし、いまの自分をそっくりあらわしているように思えるのだ。