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しゅうぶん
醜聞
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1964(昭和39)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,900 字 · 46 页
保利橋の付近にはときたま乞食がいるけれども、さくららしい女の姿も、吾平らしい男のいるようすもなかった。変ったことといえば、道の右側にあった桶屋がつぶれ、左側の石屋で双生児が生れたことくらいである。桶屋は夫婦二人でやっていたが、しょうばいがうまくいかず、夫婦で夜逃げをしたのだという。通りすがりに聞いたのであるが、石屋のほうは小僧が饒舌っていた。うちの親方には十一年も子供がなかったのに、十一年めに生れたのは女のふたごだったと、自慢そうに饒舌っているのを聞いた。片方は生活に窮して夜逃げをし、片方では十一年めに双生児が生れた。ありふれたことだろうが、絶望とよろこびが向い合せになっている。自分などの知らないところで、こういう事が絶えずおこっていることだろう、と功兵衛は思った。
今日か、明日か。さくらはいつ呼びかけてくるのか、下城するたびに、功兵衛は不安な期待に緊張した。
「苅田壮平もこんな気持だったろうか」と彼は呟いた、「御用金を不正に動かしたことがいつ明るみに出るか、今日か、明日かと、絶えずびくびくしていたことだろう」
大丈夫、これは無事に始末をつけると思いながら、同時に、自分の犯した罪に怯え続けていたに相違ない。