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しゅうぶん
醜聞
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1964(昭和39)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,900 字 · 46 页
しかし苅田はまったく違う、いかに下級の侍でも、侍には外聞というものがあり、藩士としての面目がある。借金の返済ができなくなり、それがもし表沙汰になったとすれば、扶持をはなされ、一家が離散しなければならなくなるかもしれないのである。
「苅田はそこに眼をつけたのだ」あるき続けながら功兵衛はそう呟いた、「――苅田を恐れる貧しい侍たちの、呻き声や嘆きの溜息が聞えるようだ」
「なにか仰しゃいましたか」とうしろから供の宇野幾馬が呼びかけた。
「風が寒いな」と功兵衛は答えた。
その日の午後、下城してから靱町の越川邸をたずねた。越川斎宮は次席家老でとしは四十歳、家中では毒舌家といわれているが、功兵衛には親切であり、彼がいまの役についたのも斎宮のつよい主張によるものであった。この六七日、斎宮は風邪をこじらせたそうでひきこもっていた。そのみまいを兼ねて、苅田のことを相談しようと思ったのであるが、相客がいたので相談はできなかった。客は小守高根という中老で、斎宮より二つほど年長であるが、その言葉づかいにも態度にも、――地位とは関係なしに、――斎宮に対する尊敬と謙遜があらわにうかがわれた。