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じゅうきちひょうりゅうきぶん

重吉漂流紀聞

久生 十蘭

「小説公園」1952(昭和27)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,456 字 · 52 页

青空文庫

で、ものを言う元気もなくなった。

聞けば、これはイギリスのロンドンから来た船で、ここで薪水を積み込み、七十日ばかり北へ航海し、ロシアのシトカというところへ交易に行く。帰りはたぶん来年の夏頃になるだろうという。三人を長崎へ届けてくれるものとばかり思っていたが、こういう成行では、いつ日本へ帰れるかそれさえ覚束ない。こちらの独り合点で、誰を怨もう筋もないが、こんな東の果てに流れついたところで、さらに七十日も北へ連れて行かれる。こういう運の詰りかたでは、とても日本の土を踏むことはできまいと、悲しくなって、それからは寝てばかりいた。

ほどなく船は港を出て、北西に向って走りだしたが、十一日目の夜半頃、にわかに波風がたって未曽有の大時化になった。ベケットは船の高いところに上り、おどろくような大声をあげて矢継早に指図をしていたが、波風の力には及ばず、明け方、大舵を折って流れ舟になってしまった。

重吉は、助けたまえ神々と心の中で念じながら、舳へ行き、艫へ行き、ひとりでうろたえまわっていたが、いよいよ流れ船になって、大波のまにまにあてどもなく漂いだしたのを見届けると、