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じゅうきちひょうりゅうきぶん

重吉漂流紀聞

久生 十蘭

「小説公園」1952(昭和27)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,456 字 · 52 页

青空文庫

今日から、おぬしを命の恩人だと思います」

などといっているうちに、急に目付きが変ってきて、

「やい重吉、この三年三月の間、来る日も来る日も、よくもおれを虐げたな。今日こそ怨みをはらしてやる、これでも喰え」

と鉄砲をとりあげて重吉を射ちかけた。

喜三左衛門はとっさに鉄砲をもぎとり、この気狂いめと、さんざん音七を叩きのめした。

重吉は喜三左衛門の手にすがって、ご承知の通り気の弱い男で、このながの年月、ひとすじにこがれわたっていた日本の土を踏み、嬉しさのあまり逆上したのであろう、勘弁してやってくれと頼んだがきかず、細苧の綱で蓑虫のように縛りあげ、弟の角次郎に繩尻をとらせて番所のあるほうへ追いたてて行った。

滝の下をまわって、そこからまた小一里ほど行くと、話に聞いた番所の小屋があった。調役下役村上貞助、同心木村十平などという役人が詰合っていて、一通り事情を聞きとると、衣服を着換えさせ、大椀に粥を盛りつけて食わせた。半刻ほど休息させてまたお調べがあり、それがすんだところで夜が明けた。

湯に入り、月代を剃ったりして心が落着くと、気がゆるんで身体のこたえがなくなり、昼となく夜となく、うつらうつらと眠ってばかりいた。